光は一様な媒質であれば曲がることなく直進しますが、一様でない場合、屈折率の大きいほうへ曲がる性質があります。この原理を利用し、ガラス棒中の屈折率分布を変化させることで、光をガラス棒中で蛇行させながら進ませる事が可能です。
SELFOC®(セルフォック®)、Self Focusingの略であり、光の屈折率が中心部から周辺部にゆくにつれて放物線状に低くなる細い棒状または繊維状のガラスで、光線を正弦波や螺旋状に蛇行させ伝搬することができます。また、入出射面を球面に加工しなくても、レンズとしての機能を有します。
1P
:1周期長
r
:半径方向
n
:屈折率
N0
:中心の屈折率
n(r)
:半径方向の屈折率
√A
:屈折率分布定数
P(ピッチ)はレンズ内を蛇行して進む光線の周期長であり、P=2π/√Aで表されます。レンズ中心を原点として半径rの位置における屈折率n(r)は、以下の式で表されます。
セルフォック内の光線軌跡
SELFOC®は、多くの種類の光ビームを細い空間内で同時に位相を乱さずに伝送させる事が可能です。更に、短く切れば性能の良いレンズ(一般名称:GRIN(Gradient Index)レンズ)となって優れた像伝送もできるという画期的な性能を持つガラス素材で、イメージスキャナ用レンズ、LEDプリンタ用レンズ、画像伝送用マイクロレンズやリレーレンズ、自動光学検査用レンズ、光通信機器用マイクロレンズ、光干渉用レンズとして使用されています。
SELFOC®の歴史は長く、1965年に光通信伝送路としてガラス光ファイバーの研究を弊社の尼崎研究所で開始し、1967年には光をガラス繊維の中で減衰させずに進める方法の研究を行いました。そして、1968年、日本板硝子は世界に先駆けて、ガラスロッド中に放射線状の屈折率分布を得る事に成功し、世界の大きな注目を集めました。そして現在も日々研究開発を行い、新たなSELFOC®の開発を行っています。
SELFOC®レンズの製造工程は、紡糸とイオン交換の2つに大別されます。
1
ガラスを溶融・延伸し、ロッド(棒状ガラス)を製造します。
2
SELFOC®レンズの製造において最も重要な工程です。
硝酸ナトリウム(NaNO3)等の塩を高温で溶融し、その中にロッド(棒状ガラス)を浸漬してイオン交換処理を行います。これにより、ロッド内に径方向の屈折率分布を形成します。
イオン交換では、ロッド内に存在する高屈折率の1価陽イオン(A+)が塩中に溶出するとともに、溶融塩からは低屈折率の1価陽イオン(B+)がロッド内に浸入します。その結果、ロッド内の屈折率分布は、中心部が最も高く、周縁に向かって放物線状に低下する形状となります(図1)。屈折率分布が形成されると、ロッド内で光は蛇行して進み、ロッドはレンズとしての機能を有します(図2)。
図1 イオン交換前後におけるロッド(棒状ガラス)内の屈折率分布
図2 ロッド(棒状ガラス)内の光線軌跡
SELFOC®は高品質な製品を安定的に供給するために、厳格な品質管理のもと、小スケールから大スケールの製造に対応しています。また、様々なお客様からのご要望に応じた製品にお応えすべく、試作や評価用のサンプル提供も行っています。